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ご挨拶

受診される患者様へ

2013年4月に和歌山県立医科大学から岸和田徳洲会病院脳神経外科部長に就任しました松本と申します。当院は古くから心臓血管外科や循環器内科を中心とした心臓血管系の治療では診療実績があり、伝統ある病院として発展してきました。全身の循環器系疾患を考えた場合、もう一つ忘れてはならない重要な疾患は脳血管疾患であります。全身の血管はすべてつながっていますから、血管の動脈硬化は全身の血管におよびます。よって心臓の血管が悪い人は脳や首の血管も悪く、お互い合併していることが多いといわれています。また当院は救命救急センターを設備しています。脳に関する救急疾患は治療に緊急を要する疾患、つまり脳卒中や頭部外傷がこれにあたります。以上のように、循環器系疾患、救急疾患といった当院の特色をさらに向上させ、他の病院と特化するためには、脳神経外科として特に脳血管障害(脳卒中)を中心としたスペシャリストのチームの立ち上げが必要となります。
私は約20年間にわたり脳卒中に対する診療に携わってきましたが、その間に医療技術は目まぐるしく進歩しました。できるだけ身体に傷をつけずに行う手術は、身体に対する負担を軽減するために開発された治療法で、現在では様々な医療領域において発達してきています。腹部の病気に対する腹腔鏡手術や胃がんや大腸がんに対する内視鏡手術、腰のヘルニアに対する内視鏡手術、狭心症や心筋梗塞、不整脈に対するカテーテル治療などです。脳の領域においても例外ではなく、10年ほど前から“切らずに治す治療=脳血管内治療(カテーテル治療)”が急速に発展しつつあります。中でも特に脳卒中は早くからカテーテルを駆使した治療が導入されてきた領域です。現在は脳の血管に送り込める様々な種類の微細なカテーテルやコイル、ステントが開発され、また様々な機能を兼ね備えた最新のレントゲン装置が開発されたことにより、安全に脳血管内治療を行うことが可能となりました。現在、多くの脳卒中患者さんがその恩恵を被っています。ただし最先端の医療は身体への負担が少ない分、一歩間違えると大きな合併症につながることがあります。治療を安全に行うためには、最先端の医療機器に対する専門的な知識と極めて繊細な技術が必要となってきます。
最近マスコミで取り上げられることも多くなった脳血管内治療ですが、全国的にみて泉州地域にはまだ脳血管内治療医の数は少なく、患者様にもまだ十分に認識されておらず、治療も普及していないのが現状です。当施設では指導医1名、専門医2名の脳血管内治療のエキスパートを揃えており、今後、泉州地域において脳卒中に対する最先端医療を広め、安全に治療を受けていただけるよう努力していきます。当院脳神経外科では、患者様に脳卒中のことを少しでも理解していただけるよう「脳卒中最前線」という小冊子を作成しましたので、興味のある方はご参照下さい。
もちろん一般の脳神経外科で治療されている、頭部外傷、脳腫瘍、水頭症、三叉神経痛、顔面けれんなどの手術や治療も普通に行っています。
いつでも気軽にご相談下さい。

副院長兼脳神経外科部長 松本 博之

1.脳卒中とは

“卒中”という漢字を辞書で調べてみると“卒=突然・にわかに”、“中=あたる”とあります。“脳に突然あたる”つまり、ある日突然脳に起こる病気ということです。ついさっきまで元気だったのに、突然意識がなくなったり、しゃべれなくなったり、手足が動かなくなったり・・・。このような脳の病気は脳の血管が詰まったり、破れたりして起こるため、“脳血管障害”とも呼ばれています。
脳卒中には脳の血管が詰まって起こる“脳梗塞”と、脳の血管が破れて起こる“脳出血”、脳の血管にできたコブ(脳動脈瘤)が破れて起こる“くも膜下出血”の3つのタイプがあります。さらに脳梗塞には血管の詰まり方によって3つのタイプがあります。1つめは脳の比較的太い血管(主幹動脈)の内壁に垢(アカ=アテローム)がこびりついて徐々に血管の内腔が狭くなって詰まるタイプ(アテローム血栓性脳梗塞)、2つめは脳を貫く細い血管(穿通枝)が詰まるタイプ(ラクナ梗塞)、3つめは心臓の中にできた血の塊(血栓)が脳の血管に飛んできて詰まるタイプ(心原性脳塞栓症)です。
脳出血とアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞はともに脳の血管の動脈硬化が原因で起こります。心原性脳塞栓症は心房細動と呼ばれる不整脈が原因で心臓に血栓がたまり、それが脳の血管に飛んでくるため、脳の太い血管が詰まりやすく、大きな脳梗塞を引き起こします。脳出血や脳梗塞で脳の神経細胞が破壊されると、破壊された部位と大きさによって、言語障害、手足の運動麻痺、感覚障害、視野障害、意識障害など様々な後遺症が残ります。大きな脳出血や脳梗塞では脳の圧迫が強くなり、時には命にかかわることもあります。脳卒中の予防には動脈硬化の原因となる生活習慣病(高血圧症、糖尿病、高脂血症、喫煙)のコントロールと不整脈の治療が重要です。

2.日本の脳卒中の現状

2011年の時点で脳卒中は日本人の死因の第4位となっています(ちなみに第1位が癌、第2位が心臓病、第3位が肺炎です)。1960年代には脳卒中が死因の第1位を占めていた時期があり、その頃の脳卒中は7割以上が脳出血でした。脳梗塞は2割程度でそのほとんどがラクナ梗塞と呼ばれる“小さな脳梗塞”で、これらはともに高血圧症が原因とされてきました。その後すぐれた降圧剤が開発され、血圧のコントロールがうまくできるようになり、致死的な脳出血は激減しました。
現在、脳卒中の死亡率は減少しましたが、脳卒中患者数は現在もなお右上がりに増加しています。現在の脳卒中の特徴は、脳梗塞が7割近くを占めており、脳卒中のほとんどは脳梗塞であると言えます。脳梗塞の3つのタイプの中でもアテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症が増えつつあるのが特徴です。脳の細い血管(穿通枝)が詰まるラクナ梗塞は“小さい脳梗塞”であるため、意識障害を伴うことはありません。一方、残り2つのタイプの脳梗塞は脳の比較的太い血管が詰まるため、“大きな脳梗塞”となりやすく、麻痺や言語障害だけでなく、意識障害を伴います。よって重篤な後遺症が残り、ほとんどが寝たきりとなります。つまり脳卒中を起こした場合、何らかの後遺症が残ったり、寝たきりになったまま、亡くならずに生涯を過ごす患者さんが増えているのが現状です。
高齢化社会を迎える日本にとっては、今後ますますこの傾向が続くことになります。脳卒中は本人だけでなくその介護を行う家族にも精神的かつ経済的に大きな影響を及ぼします。脳卒中を予防することが最も大切ですが、もし起こってしまった場合には一刻も早く適切な治療を受けることが重要です。

3.切らずに治す脳卒中(脳血管内治療とは)

脳血管内治療とはレントゲンの透視下に、下肢の付け根から遠隔的に脳の血管の中にカテーテルと呼ばれる細い管(くだ)を挿入し、血管の内側から治療する方法です。頭を切ったり、脳を触る手術操作を必要としないため、傷跡は残らず、術後の痛みもなく、安静も半日程度、問題がなければ数日で退院することも可能です。血管の細くなった部分は風船(バルーン)付きのカテーテルで拡げたり、詰まった部分は再開通させます。血管の破れた部分は再出血しないように内側からコイルなどで詰めます。
脳の血管は一番太い血管でも4mm程度で、枝分かれしていくにつれ徐々に細くなり、血管の曲がりも複雑になっていきます。時には1mm程度の細い血管の中にまでカテーテルを誘導することもあります。よって脳血管内治療に使用するカテーテルやガイドワイヤーは脳の血管に適した専用の微細な構造をもったものでなければなりません。マイクロカテーテルやマイクロガイドワイヤーのように“マイクロ”といった名前がついています。
足もとからレントゲンの画面を見ながらマイクロカテーテル等を遠隔操作するため、治療中の患者さんの身体のちょっとした動きが繊細な操作の妨げとなります。よって脳血管内治療はカテーテル室で行いますが、全身麻酔下に行われます。現在、脳の血管の中に送り込むことのできる道具がたくさん開発されています。脳動脈瘤を詰めるための様々な形状をしたコイル、コイルがはみ出さないように支えるためのバルーンやステント、血管に詰まった血の塊(血栓)を取り除くための吸引式カテーテルやバネ状のワイヤーやステントなどが次々と開発され使用できるようになっています。細い脳の血管の中で微細な道具を足もとから操作するには、きわめて専門的な特殊技術が必要です。切らずに治す治療は患者様の身体の負担は極めて少ない治療ですが、カテーテルが病変部に到達できない場合は施行できません。また手術中に血管を写し出すための造影剤を使用するため、腎機能が悪い方も受けることができません。血管の中にカテーテル等の異物を入れて治療を行うため、異物に反応して血栓が付くことがあります。このため術前後に血栓予防のために抗血小板剤(血液をサラサラにする薬)を内服する必要があります。また脳の中で合併症がおこると極めて重篤な症状が出現することがあります。必ず脳血管内治療の指導医、専門医がいる施設で相談し治療を受けることをお勧めします。

4.くも膜下出血 -突然の激しい頭痛は要注意-

突然今までに経験したことのない激しい頭痛と吐き気、嘔吐が起こったら、くも膜下出血を疑います。くも膜下出血は、脳の血管の分かれ目にできた血管のコブ(脳動脈瘤)が破れて起こる病気です。破れた脳動脈瘤から漏れ出た血液は、脳の隙間(すきま)を埋め尽くし、脳全体を締め付けるように圧迫します。脳の内圧が上がると生命の危険に至ります。くも膜下出血が起こった時の状態で、重症度が5段階に分けられています。最も軽症のものは、軽い頭痛のみでかかりつけ医を受診し、風邪と間違われることもあります。激しい頭痛と嘔吐で運ばれてくる中程度のものから、意識障害を呈して昏睡状態で運ばれてくる最も重症のものまで様々です。病院に搬送された時の状態が重症であるほど、予後は不良となります。破れた脳動脈瘤は一時的に自然に止血されますが、数時間から半日以内に再び破れる危険があります。破裂を繰り返すたびに脳のダメージは強くなり、一気に重症化します。
くも膜下出血の治療は破裂した脳動脈瘤の再破裂を未然に防ぐことから始まります。現在、再破裂予防には二つの手術方法(開頭手術と脳血管内治療)があります。破裂予防の手術が無事終わると、今度は血管の縮み(脳血管れん縮)に対する点滴治療が必要となります。血管の縮みが強いと、脳の血流不全が起こり、脳梗塞を引き起こすことがあります。脳梗塞が起こると麻痺や失語症などの後遺症が出ます。また脳の隙間に残った血液(血腫)が原因で目詰まりが起こると、脳の水(髄液)の流れや吸収が悪くなり、脳の中にある「脳室」と呼ばれる髄液を産生する部分に髄液が溜まり、脳室が拡大してきます。この状態を「水頭症」といいます。髄液の自然な吸収が障害されるため、髄液を流すための追加手術が必要となります。急性期に水頭症が起こった場合には脳の内圧が急激に上昇するため、緊急で髄液を外に排出するための「脳室ドレナージ術」が必要になります。慢性期に水頭症が起こった場合には、持続的に自分の体内に髄液を流し続けるためのシャント手術が必要となります。現在シャント手術には2通りの方法があり、脳室から腹腔に髄液を流す「脳室―腹腔シャント術」、腰の脊髄の隙間から腹腔に髄液を流す「腰椎―腹腔シャント術」があり、患者様の病態に応じて選択しています。
このように、くも膜下出血が起こると、脳内に様々な現象が起こってきます。破裂した脳動脈瘤の処置、脳血管れん縮の治療、水頭症の治療を乗り切ることができてはじめて元気に退院することができます。しかし、社会復帰できる率は未だに50%程度で、残り50%の方は亡くなったり、重篤な後遺症が残ると言われており、依然として恐い病気のひとつです。

5.脳動脈瘤

脳の血管の分かれ目にできた血管のコブ(脳動脈瘤)が破裂するとくも膜下出血を引き起こします。最近自分の脳に興味をもって脳ドックを受けられる方が増えてきましたが、それに伴い、破れる前の脳動脈瘤が見つかる機会も増えています。脳動脈瘤が偶然見つかった場合にどう対処すべきか気になるところです。脳動脈瘤が自然経過中に破裂する率は、1年間に1%未満と言われていますが、脳動脈瘤の大きさや形によって破裂率に若干の差があります。脳ドックのガイドラインによると、大きさが5mmを超える場合、形が不整形な場合、くも膜下出血の家族
歴がある場合、多発性の脳動脈瘤の場合、年齢が若い場合には破裂する前に治療を考慮してもよいとされています。 現在、脳動脈瘤の治療法には2つの外科的治療法があり、破裂脳動脈瘤も未破裂脳動脈瘤も治療方法は基本的に同じです。一つは“開頭ネッククリッピング術”と呼ばれ、以前から行われている手術で、脳の奥にある動脈瘤の頚部(ネック)を専用の手術用クリップで挟むことで、動脈瘤内に血流が入らないようにします。もう一つは“脳動脈瘤コイル塞栓術”と呼ばれ、血管の中から動脈瘤内にマイクロカテーテルを誘導し、動脈瘤の内側から専用のコイルを充填することで、動脈瘤内に血流が入らないようにします。これは比較的新しい治療法で、現在様々な種類のコイルやカテーテルが開発され、安全に施行できるようになりました。現在、「頭を切らずに行う脳血管内治療」の中で最も普及している治療法です。どちらの治療法が適切かは、脳動脈瘤の大きさ、形、できている部位、年齢を考慮し、確実に処置ができる方を個々の脳動脈瘤に応じて選択します。最近ではコイル塞栓術で治療を行う割合が増えつつありますが、専門的技術を要するため、必ず指導医、専門医がいる施設で治療を受けることをお勧めします。もし脳動脈瘤が見つかったら、一人で悩まず、治療の必要の有無、治療方法について、一度気軽にご相談下さい。

図1 脳ドックで発見された未破裂脳動脈瘤:コイル塞栓術で治療

図2 軽い脳梗塞の検査の際に発見された未破裂脳動脈瘤:コイル塞栓術で治療

図3 脳ドックで発見された巨大脳動脈瘤:コイル塞栓術で治療

図4 脳ドックで発見された未破裂脳動脈瘤:開頭ネッククリッピング術で治療

6.脳梗塞 -脳梗塞は時間との戦い-

ある日突然ご家族の方に、意識障害、身体の片側が動かない、言葉がしゃべれない、といった症状が起こったなら、それは脳の危険なサインです。しばらく様子をみていてはいけません。もし脳梗塞の場合、詰まった血管がすぐに再開通できれば、死にかけた脳細胞が助かり、脳梗塞の範囲を最小限に食い止めることができるかもしれません。一刻も早く救急車を呼んで、最新の脳卒中治療ができる病院に搬送しなければなりません。脳の細胞は血流が途絶えて酸素不足に陥ると、数時間で死んでしまいます。死んだ脳細胞は二度と生き返ることはありません。そうなる前に血流を再開通させねばなりません。
現在、脳梗塞の症状が起こって4時間半以内であれば、血管に詰まった血栓を溶かすt-PAと呼ばれる薬を点滴することができます。ただしこの薬を使用するにはいくつかの条件を満たす必要があります。症状が起こった時間がはっきりと分かっていること、病院に到着したときの脳のCT検査でまだ脳梗塞の兆候が表れていないこと、数週間以内にケガや手術をしていないこと、もともと血液をサラサラにする薬を服用していないことなどです。CT検査や適応条件のチェックおよび薬の調合などの時間を差し引くと、少なくとも発症後3時間以内に病院に到着しなければなりません。まさに一刻を争う、時間との戦い“Time is brain.”です。
最近では、t-PAの点滴の時間に間に合わなかった場合、t-PAの点滴治療の条件に満たない場合、t-PAの点滴が効かなかった場合に、さらに最新の脳血管内治療を追加できるようになりました。太ももから脳の詰まった血管に細いバルーンや吸引カテーテル、バネ状のワイヤー、ステントなどを誘導し、直接血栓を粉砕したり、吸引したり、引っかけて回収したりします。これらは“急性期血栓回収療法”と呼ばれ、8時間以内までなら行うことができます。最近増えつつある心原性脳塞栓症がこれらの最新治療のよい適応となります。現在日本で認可されている血栓回収の道具には3つのタイプがあります。どれを使うかは、閉塞した血管の部位、血管走行(動脈硬化の程度)によって使い分けます。 2014年末に欧米の臨床研究調査で、t-PAの点滴治療にさらに血栓回収療法を追加した方が再開通率もよく、後遺症の程度も軽減できることが分かってきました。また再開通できるまでの時間が早ければ早いほど予後もいいということです。現在超急性期の脳梗塞に対しては、t-PAの点滴をしながら同時にカテーテルによる血栓回収療法を施行できる施設に搬送してもらうことが重要です。
当院脳神経外科では上記治療に対応できるプロフェッショナルのチームを備え、24時間対応できる体制を整えています。

図5 心原性脳塞栓症による中大脳動脈閉塞:吸引カテーテルにより再開通

7.一過性脳虚血発作 -脳梗塞の危険信号-

突然片側の手足に力が入らなくなったり、ろれつがまわらなくなったり、片方の眼が見えなくなったりしたのち、数分以内にもとに戻る。これらは脳梗塞が起こる一歩手前の危険信号で、“一過性脳虚血発作”と呼ばれる病態です。頸部(くび)や脳の血管の内側に動脈硬化による垢(アテローム)が蓄積されて血管の内腔が狭くなってくる(“狭窄”といいます)と、血流が妨げられ、脳に十分な血流が届かなくなり、脳梗塞が起こります。また狭窄の手前で血液が鬱滞すると血の塊(血栓)ができ、血栓が狭窄をすり抜けて眼の血管や脳の血管に飛んでしまうと、失明や脳梗塞が起こります。時にはアテロームそのものが破れて垢の破片が脳の血管に飛んで脳梗塞を起こすこともあります。アテロームが原因で起こるこれらの脳梗塞をアテローム血栓性脳梗塞といいます。
このような“狭窄”は頚部の血管に起こりやすく、“内頸動脈狭窄症”と呼ばれ、将来脳梗塞を起こす危険性が高く、脳梗塞予備群として問題となっています。脳梗塞を起こす前に治療が必要です。狭窄が軽度の場合には血をサラサラさせる薬(抗血小板剤)で様子をみることが可能ですが、狭窄が重度の場合には外科的治療が必要です。現在外科的治療には2つの方法があり、一つは手術室で全身麻酔下に、頚部の血管を露出して垢のたまっている血管を切開し、内側にこびりついた垢を取り除く手術(頸動脈内膜剥離術)です。もう一つはカテーテル室で局所麻酔下に、血管の内側から風船(バルーン)付きカテーテルで狭窄を拡げたのち、内側からステントと呼ばれる金属のメッシュ状の筒(つつ)を置いて、血管の壁に垢ごと押し広げる方法(頸動脈ステント留置術)で、脳血管内治療のひとつです。もちろん後者は首に傷跡は残らず、4~5日の入院で済みます。現在では脳の血管に使用できる極めて細いステントも使用できるようになっています。
血管が狭窄している場合にはバルーンやステントで狭くなった部分を広げることが可能ですが、すでに血管が完全に詰まってしまっている場合には広げることはできません(このような状態を“閉塞”といいます)。血管が閉塞していても、自分の脳の血管に自然に側副血行路(バイパス)が発達している場合には症状は出ず、まったく気づかずに生活している方もいます。しかし脱水が起こって血液が濃縮されたり、血圧が下がり過ぎると、自然に形成された側副血行路を通って脳の隅々にまで血流が行き渡りにくくなり、この時に一過性脳虚血発作が起こったり、脳梗塞を起こすことがあります。このような場合には、血流が不足している脳の領域に人工的にバイパスを作る必要があります。一般に、こめかみ部分の皮下にある血管(浅側頭動脈)を脳の表面にある血管(中大脳動脈)につなぐバイパス術を行います。 これら頸部や脳の血管の狭窄や閉塞は、MRAと呼ばれる脳や首の血管をみるMRIや頸動脈のエコー検査によって、外来で容易に調べることができます。脳ドックや脳の精査で「脳や首の血管が細い、詰まっている」と言われたら一度ご相談下さい。

図6 無症候性頚動脈狭窄症:頚動脈ステント留置術を施行

図7 脳梗塞で発症した右内頸動脈閉塞症:浅側頭動脈-中大脳動脈バイパス術で治療

8.脳出血 -高血圧は早い目の治療を-

高血圧を放置しておくと脳の血管は動脈硬化を起こし、動脈硬化を起こした血管はやがてもろくなって破れるか、内腔が狭くなって詰まるかのどちらかです。詰まると脳梗塞、破れると脳出血を起こします。このため脳出血のほとんどは一般に高血圧性脳出血と呼ばれています。一般には、脳を貫く細い血管(穿通枝)が破れて起こります。脳内に出血が起こると、漏れ出た血の塊(血腫)は脳を破壊し、周囲の脳を圧迫します。破壊された部位に応じて、片麻痺や知覚障害、言語障害、視野障害など様々な症状が起こります。一度破壊された脳は元に戻ることがないため、症状は後遺症として残ることになります。血腫が大きい場合には脳圧が高くなり、生命の危険に及ぶことがあります。脳出血が起こった場合、小さな出血だと点滴治療ですみますが、生命に危険が及ぶような大きな出血では、緊急で大きく頭を開けて血腫を取り除く手術が必要となります。中程度の出血であれば、専用の器具を使用し、コンピューターで計測した血腫の位置に細い管を正確に誘導し、局所麻酔下で血腫を吸引します(定位的手術)。1円玉程度の小さな穴で行うことができるので、脳の負担は最小限ですみます。手術をして血腫を取り除いても、破壊された脳の機能は戻ってきません。手術のあとはリハビリテーション中心の治療を行います。以前は脳卒中の大半を占めていた脳出血ですが、現在は著明に減少しています。これは様々な優れた降圧剤が開発され、高血圧のコントロールが良好となってきたためと言えます。しかしながら、今もなお高血圧を治療せずにいる方、自分で勝手に薬を中止した方が脳出血を起こして運ばれてくることがあります。高血圧を指摘された方は放置せずにかかりつけの医院で相談し、自分に合った降圧剤を調節してもらうことが大切です。また自分の判断で薬を中止することはやめましょう。

9.脳卒中の予防 -生活習慣病の自己管理が大切-

脳卒中を起こすと、多くは後遺症が残り、時には命にかかわることもあります。後遺症の程度によっては介護が必要となり、時には寝たきりになることもあります。脳卒中は寝たきりの最大の原因と言われており、寝たきりの4割は脳卒中であるとも言われています。さらに問題なのは、一度脳卒中を起こすと、再発する危険性が高くなり、特に脳梗塞や脳出血は再発率が高いと言われています。脳卒中の主な原因は脳の血管の動脈硬化です。動脈硬化でもろくなった血管は、破れるか詰まるかのどちらかに至ります。動脈硬化の4大危険因子は高血圧、糖尿病、脂質異常(高コレステロール血症)、喫煙です。これらのいわゆる「生活習慣病」を日ごろからきっちり自己管理し、必要な場合には薬でコントロールすることが重要となってきます。
最近増加している心原性脳塞栓症の予防には、不整脈(心房細動)の治療や心臓に血栓が付きにくくする薬(抗凝固剤)の内服が必要です。アテローム性脳血栓症の治療や再発予防には、血流を良くするための抗血小板剤の内服が必要です。また普段からこまめに水分補給を心がけ、脱水によって血液が濃縮されてドロドロになるのを防ぐことも重要です。ウォーキングなど適度な運動は、心肺機能を高め、足腰の筋力維持にも有効で、肥満予防にもつながります。脳卒中で後遺症が残って介護が必要になると、ご自身だけでなく、ご家族の方にも精神的負担、経済的負担が重くのしかかってきます。ですから、脳卒中を起こさないように予防することが最も大切です。

10.無症候性脳梗塞 -生活習慣病のコントロールを優先に-

「かくれ脳梗塞」という言葉をご存知でしょうか。何の症状もなく、本人も全く気付いていないのに、脳ドックなどで脳のMRIを施行した際に脳梗塞を指摘されることがあります。多くは脳の末梢の極めて細い血管が動脈硬化で知らない間に詰まってしまった跡で、大脳半球に散在性にラクナ梗塞として認められることがほとんどで、正確には「無症候性ラクナ梗塞」と呼ぶべきです。
60代後半くらいから認められることが多く、高血圧や糖尿病、高脂血症、喫煙歴などの生活習慣病ある人のほとんどに認められます。生活習慣病のない人でも加齢とともに出現してくることがあります。「かくれ脳梗塞」が多いということはそれだけ脳の血管の動脈硬化が進行してきているサインと言えます。「かくれ脳梗塞」が見つかった際に血液をサラサラさせるような薬(抗血小板剤)の内服は必要なのでしょうか。基本的に必要はないと思われます。それよりも動脈硬化の原因となる、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙などの生活習慣病の治療を優先することが大切です。ただし、MRAなどで脳や首の血管が明らかに細くなっている場合には抗血小板剤の内服も併用する必要があると思います。「かくれ脳梗塞」を指摘されたら、まずは生活習慣病を見直してみましょう。

★特発性正常圧水頭症 -手術で治る認知症-

最近徐々に歩行がたどたどしくなってきた、物忘れがひどくなってきた、意欲や活気がなくなってきた、トイレが間に合わない(尿失禁)、といってご家族に連れられて外来受診したり、外来に紹介されてくる患者様がいます。頭部CTやMRIを施行してみると、脳室と呼ばれる部分が拡大していることがあります。これは水頭症といわれる病態で、脳の中を流れている「脳脊髄液=髄液」の流れや吸収が何らかの原因で障害されて起こってくる病気です。髄液は脳室と呼ばれる部分で1日に約500mlずつ産生され、脳室を出た後、くも膜下腔と呼ばれる脳の隙間を循環し、最後は脳の頭頂部にあるくも膜顆粒とよばれる部位で吸収されます。常に一定量を維持し、脳や脊髄を覆って保護する役目もあります。この循環のどこかで通過障害や吸収障害が起こると、産生される脳室に影響がおよび、脳室が拡大してきます。髄液吸収障害のはっきりとした原因が分かっていないため、特発性正常圧水頭症といわれています。症状からは一般の認知症状として見逃されていることもしばしばあります。水頭症の中には、手術で髄液の流れを改善すれば症状がよくなるものがあります。特発性水頭症はその一つです。脳で吸収できなくなった髄液を体内の腹腔に流す手術を行います。現在、直接脳室から腹腔に流す「脳室-腹腔シャント術」と腰椎の部分から腹腔に流す「腰椎-腹腔シャント術」の2つの手術方法があります。ともに髄液の流れる程度を微調整するためのシャントバルブを頭皮下あるいは腰部の皮下に埋め込みます。
このような手術で治る水頭症であるかどうかは、決まった「診断基準」が作成されており、この診断基準にのっとって手術適応を決めています。まず外来でMRIにより、脳の形状が特発性正常圧水頭症に特徴的であるかどうかをいろんな方向からの脳の断面で確認します。MRIで特発性正常圧水頭症の可能性が高いと判断された場合、今度は実際に腰椎の部分から髄液を少量抜き取って、髄液を抜きとる前後で歩行障害や認知症の改善が認められるかどうかを比較します。これは「タップテスト」と呼ばれ、入院による検査が必要となります。以上の検査で手術の効果が期待できると判断された場合に、後日改めてシャント手術を行います。シャントバルブは精密な機械のため、MRI等の磁気で設定が狂うことがあります。シャント手術を受けた方は定期的な外来受診で頭部CTによるフォローアップが必要であり、またMRIを受ける際には必ず申し出るようにして下さい。

★慢性硬膜下血腫 -軽微な頭部打撲も要注意-

頭が重たい、片方の手足の力が入りにくい、物忘れがひどくなってきた、意欲や活気がない、といった症状で脳外科外来を受診した患者様の頭部CTを施行すると、脳の表面に古い血液(血腫)を認めることがあります。これは慢性硬膜下血腫と呼ばれるものです。ほとんどは1-2か月前の頭部打撲が原因です。本人やご家族の方がそれほど気にもしていなかったような軽微な頭部打撲でも起こってくることがあります。まれにですが血液をサラサラさせる薬(抗血小板剤や抗凝固剤)を大量かつ長期に渡って内服している方で起こることもあります。
硬膜は頭がい骨の裏側に強固にくっ付いて脳を保護している頑丈な膜ですが、硬膜の一部から脳の表面に橋渡しする静脈(橋静脈)が出ています。頭部を打撲した際に、骨の器に対して中の脳が揺れて動くと、橋静脈が断裂することがあります。静脈性の出血であるため、じわじわと出血してはまた止血されるといったことを繰り返しながら、1-2か月かけて脳と硬膜の間のスペースに古い血腫が徐々に蓄積されていきます。これが慢性硬膜下血腫と呼ばれます。脳委縮が進んできた高齢者に起こりやすい傾向があります。血腫が少量であれば自然消失が期待できますが、ある程度の量を超えると脳の圧排が強くなり、頭痛や片麻痺や認知症状、意欲低下が起こってきます。
自然吸収が期待できない場合には、手術で血腫を取り除く必要があります。慢性硬膜下血腫の手術は局所麻酔で行われます。血腫の上の頭皮を3cmほど切開し、頭がい骨に1円玉程度の穴を開けて、硬膜を切開し、古い血腫を注射器で吸引除去し、その後生理食塩水でしっかりと洗浄します。手術時間は30分ほどで終了し、1週間程度の入院ですみます。手術をしても1割程度の方がすぐに血腫を再発することがあります。
頭部を打撲して、1-2か月してから頭重感、見当識要害、歩行障害ができた場合には慢性硬膜下血腫かもしれません。頭部CTでの検査をお勧めします。

図8 左慢性硬膜下血腫:局所麻酔下での尖頭血腫除去術で治療

★三叉神経痛、片側顔面けいれん -血管と神経が接触して起こる病気-

食べ物を噛んだときや何かが頬に触れた際に、「焼け火鉢でえぐられるような激痛」が片側の歯ぐきや下顎、頬に走ることがありませんか。また片側の目の周囲から頬にかけて顔面の筋肉が自分の意志とは無関係にぴくぴくと動いていることはありませんか。
前者は「三叉神経痛」、後者は「片側顔面けいれん」と呼ばれています。これらの原因は、脳の深部にある脳幹と呼ばれる部分から出ている顔面神経や三叉神経の根元で、脳幹周囲にもともと存在する細い血管が接触して起こってきます。三叉神経痛では最初は歯の痛みとして歯科を受診し、抜歯されていることもあります。これらの病態が生命を脅かすことはありませんが、あまりの激痛に自殺を考える方もいます。また人前で顔面がぴくぴく動くのが恥ずかしいといった美容的な面で悩んでいる方も多くいます。
三叉神経痛に対しては鎮痛剤でコントロールされたり、顔面けいれんに対してはボツリヌスの毒素を顔面の筋肉に少量注射し、筋肉を麻痺させてけいれんを止める保存的治療もなされています。しかしこれらの保存的治療は一時的な対症療法のため、徐々に痛みやけいれんがコントロールできなくなってきます。
これらの症状を根本的に治療するためには、三叉神経や顔面神経に接触している血管を離す手術(神経血管減圧術)が有効です。この手術は耳の後ろの骨の一部を500円玉くらい削って、そこから脳の隙間を通って脳幹周囲にたどりつき、神経と接触している血管の間に小さなクッションを置いてくる手術です。手術の直後から顔面の痛みやけいれんが消失します。
顔面の痛みやけいれんで長年悩んでいる方は一度MRIで神経と血管が当たっていないか調べてみましょう。

図9 三叉神経痛:神経血管減圧術で治療