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腹膜播種センター
治療対象
腹膜播種を有する胃癌・大腸癌・卵巣がん・原発性腹膜癌・腹膜中皮腫・腹膜偽粘液腫・虫垂癌・小腸癌・顆粒細胞腫・膵癌・胆管癌・乳癌・腹腔内肉腫などを治療対象としている。また、肉眼的に播種がなくても術中細胞診陽性胃癌・大腸癌や腹膜播種を起こす可能性の高いスキルス胃癌や大動脈周囲リンパ節転移例や大腸癌の肝転移を積極的に治療している。
腹膜播種+肝転移あるいは+大動脈周囲リンパ節転移例も対象となる。このような場合は腹膜切除に加えて、肝切除や大動脈周囲リンパ節郭清術も同時に行なう。
腹膜偽粘液腫 pseudomyxoma peritonei (PMP)はきわめて稀な疾患であり、100万人に一人の割合で発生するといわれている1, 26)。発生原因は現在のところ不明である。
原発巣はほとんどが虫垂と考えられているが、卵巣から発生するものもある。組織学的に悪性度の低い粘液腺腫や、がん細胞が原発巣内腔で増殖し、内圧が高まり、穿孔を起こし腺腫が腹腔内にこぼれ落ちることから始まる。こぼれ落ちた細胞が腹腔内をただよい、転移しやすい遠隔腹膜に着床・増殖すると考えられている。転移しやすい腹膜には腹膜直下にリンパ管開口部が多くみられ、遊離がん細胞がこのリンパ管開口部から進入、粘液を産生しながら増殖する。その結果大きな粘液塊を形成した播種巣が形成される。周囲臓器への浸潤性は少なく、転移巣を切除しやすいのがこの疾患の特徴である 3,4)。
腹膜偽粘液腫に対する全身化学療法はほとんど無効と考えられている1)。その原因は血流が乏しいため投与した抗がん剤が到達しにくい、増殖が遅くG0細胞が多いため薬剤が効きにくいことがある。また、細胞成分が少なく、細胞が死滅しても粘液が遺残し、無効と判定されている可能性がある。したがって、外科的切除が唯一の治療と考えられている。PMPは柔らかい粘液で構成される腹水部分と、硬い粘液でできている固形粘液部分がある。腹水には粘液を周囲に持つ遊離がん細胞が認められるので、手術中は腹水を吸引し、腹膜や剥離面こびりついている粘液を洗い落とす必要がある。固形粘液部は大網。横隔膜下面・骨盤腹膜・卵巣・大腸脂肪垂などの腹膜に見られる 2)。一般的な手術手技ではごく早期の転移は切除可能であるが、ある程度広がった転移を完全切除することは不可能である。
1996年腹膜に転移した病巣を切除する腹膜切除という術式が開発された5-8)。この方法により従来切除不能と考えられていた腫瘍をすべて摘出することが可能となった。また、完全切除例の予後はきわめて良好(5年生存率 86%)であることから、この術式により完全切除することが偽粘液腫の患者さんの予後を改善させる唯一の方法であると考えられている。この術式は欧米では170箇所の病院で行われているが、本邦でこの術式が行われている施設は少ないのが現状である。
偽粘液腫の予後を支配するその他の因子は組織学的悪性度・以前に行われた手術の程度などがある 11,12,13). RonnettらはPMPを組織学的悪性度から3型にわけている 11〕。disseminated peritoneal adenomucinosis (DPAM)は異型性の少ない核でが基底膜上に1層に並んだ腺管構造を示すもので増殖能〔分裂指数〕も低く、固形腫瘍部でも細胞成分が少ないものである。peritoneal mucinous carcinomatosis (PMCA)は核異型が強く、核の重層化、増殖能も高い悪性例である。peritoneal mucinous carcinomatosis with intermediate or discordant features (PMCA-I/D)はDPAMの所見を示すが、一部にPMCAの異型性を示す部分のあるものである。Ronnettによれば予後はDPAMがもっとも良好で、DPAMは不良であり、各々の5年生存率は84%、14%であると記載している。PMCA-I/Dの5年生存率は前2者の中間である38%であったとしてい 11〕。不完全切除に終わる例はPMCA, PMCA-I/Dで多く見られるが、5年生存率は不完全切除例でも15%もあると言われている。このような例に腹膜切除を行えば、予後が改善される可能性がある。腫瘍を残してしまったDPAMでは比較的長期間生存可能であるが、腹部に大量の粘液が貯留し、患者さんの生活の質は極端に悪くなる。また、腸を圧迫し食事が摂れなくなったり、胆管を圧迫し黄疸を起こす例もある。残った腫瘍が悪性化し悪液質で死亡する例がある。
以前に行われた手術の施行数1回以下・切除範囲が狭い場合は、完全切除率が高いが、すでに広範な切除が行われたり、2回以上手術が行われた例の完全切除率は有意に低く、予後も不良といわれている10)。
従来の手術で不完全切除に終わった例はその後複数回の手術が施行され、手術を重ねるたびに癒着などで完全切除困難な例が多くなり、予後も不良になる。したがって、初回の手術で腹膜切除で完全切除することができれば、この疾患の予後は改善されると考えられる。
このセンターではでは平成23,24 年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)による:腹膜偽粘液腫の本邦における発生頻度・病態の解明・治療法の開発(H23-難治-一般-068)の援助を受け腹膜偽粘液腫の臨床研究を行なった。